世界の人口増加にともない、水の需要が増加しています。そのような中で近年、工業・農業・都市生活に求められる水質が重要になっています。河川水や湖沼水、地下水などの原水には、病原菌などが含まれていることがあるため、そのまま使うわけにはいきません。
そこで、比較的キレイな上流域の湧水や沢水、井戸水などを飲料水として利用できるように、上水処理を行う浄水装置が使われています。この浄水装置のコアになる技術が「ろ過」です。 ここでは、ろ過技術の最新方式である「膜ろ過」について解説します。
ろ過技術には、ろ過する対象によって複数のろ過材が用意されています。粗めのろ過を行うときはスクリーン(ふるい)などが使用され、より精度の高いろ過を行うときは、糸巻きフィルターや不織布フィルターなどが使用されます。さらに精度の高いろ過が必要なケースでは、膜を利用した「膜ろ過」と、砂を利用した「砂ろ過」の方式に大別されます。膜ろ過は比較的新しい技術で、砂ろ過は古くからある伝統的な技術です。ここでは膜ろ過を中心に解説します。
膜ろ過の仕組みを理解するには、泥水をザルに通す作業をイメージすると良いでしょう。ザルの網目より細かい泥の粒子は通り抜けますが、ザルの網目より大きな異物などはザルの中にとどまります。
膜ろ過は、微細な孔が空いた膜に通水することで、水と異物を取り除くことができます。この孔径の大きさの順から「MF膜」(精密ろ過)>「UF膜」(限外ろ過)>「NF膜」(ナノろ過)>「RO膜」(逆浸透)の4種類に分類されます。【★図2】のように、MF膜は孔径が数十nm~10μmで、主に水中の濁りや細菌類、バクテリアなどを除去しますが、ウイルスまでは除去しきれません。一方で、UF膜はMF膜よりも微細な孔径をもち、ウイルスの一部ならば取り除けます。さらに微細な孔径のNF膜は、分子量の小さな物資や、水に溶け込む溶剤、農薬などの成分まで除去できます。最も小さなRO膜ならば、水に溶け込む物質やイオンのほかに、塩類の除去も可能で、海水から淡水を作れるようになります。一般的に水道局の膜ろ過施設では、細菌類やウイルスを除去するために、MF膜やUF膜の浄水装置を使用しています【★図2】。
汚れの溜まった膜を物理的に洗浄するには、浄化した水や空気を逆方向に流して汚れを捨て去る「逆圧水洗浄」(逆洗)という方法があります。膜の形状は、平面状(シート状)の「平膜」と、円管状の「チューブラ」、チューブラよりさらに細いストロー状の「中空糸」の3種類に分類されます。洗浄性の観点では、平膜は逆洗性が悪く、中空糸のほうがチューブラよりも逆洗性に優れており、数多くの実績があります。
また、膜自体はモジュール型になっており、膜の内側から圧力をかける「内圧式」と、膜の外側から圧力をかける「外圧式」の2種類の通水形式があります。内圧式は、膜の内側から外側に向かって流れるため、膜表面の汚れや堆積物が膜の内側に引き込まれにくいという特長があります。一方、外圧式は、外部から加える圧力を細かく制御できるため、膜全体に均等に洗浄することができます。また、外圧式は逆圧水洗浄(逆洗)をする際に空気洗浄が可能です。
いずれにしても膜ろ過のメリットは、膜の交換や清掃が容易なので、メンテンンスコストを抑えられることです。膜ろ過の仕組みは明快で、浄水性能にも再現性があり、メンテナンス時に属人的なノウハウが不要な点、装置の自動化が容易なことも大きなアドバンテージと言えるでしょう。
前出のようにナノレベルでの高精度なろ過に対応できることも大きなメリットになります。当然ながら、膜の孔径が小さいほど、微小な不純物を取り除けます。ただし、小さなミネラル分を取り除きすぎると、半導体製造に使われるような純水に近くなり、飲料水としては水の旨味が損なわれてしまうこともあります。
小さな孔径のNF膜やRO膜を使う際には、圧力をかける必要があるため、浄水処理を施す設備に大きなエネルギーが求められます。孔径が非常に小さく、未処理の原水を通水すると膜が目詰まりを起こしやくなるため、通常はMF膜やUF膜を前段に配置しておき、事前に大きな異物を除去する工夫を凝らしています。このように膜ろ過方式を採用する場合には、膜の浄水能力や設備エネルギー、ランニングコストなどを総合的に勘案しながら、どのような装置の膜ろ過方式を採用するかということを検討しましょう。
では、膜ろ過方式を採用した浄水装置は、主にどんな利用シーンがあるのでしょうか?まずは、冒頭のように生活用水の確保が考えられます。例えば、山間地にある小規模集落では、過疎による限界集落化が進んでおり、住民の生活と健康を守る水道施設が老朽化しています。施設の維持・管理を担う人材も不足しており、施設の維持管理に苦労されていることも少なくありません。さらに、近年は異常気象で突発的な集中豪雨が発生し、原水の水質の悪化や、原虫のクリプトスポリジウムによる健康被害も懸念されています。膜ろ過の浄水装置を地方自治体が導入することで、こういった課題を解決することができます。
もう1つの利用シーンとしては、工場などから出される排水の処理が考えられます。工場内で使われた水をそのまま放水すると、外部環境に影響をおよぼしてしまいます。そこで、様々な薬剤が使用された水や、汚染物質などが含まれた工場の水を処理するために浄水装置を使うわけです。また、半導体製造プロセスでは、高純度の水が必要になるため、膜ろ過の浄水装置が導入されています。そのほか、真水が取れない地域などで、海水に含まれる塩分を除去して淡水化するために、前出のRO膜が使用されることもあります。
最後になりますが、生活用水や飲料水レベルでの浄化が可能な浄水装置について、簡単に触れておきましょう。株式会社清水合金製作所が提供する「アクアシリーズ」は、2種類の膜ろ過を選択でき、さらに活性炭などのオプションを組み合わせることで、幅広い原水の浄水処理に対応しています。また、クリプトスポリジウムなどの対策に特化したUV(紫外線照射)による殺菌処理もラインナップしています。
アクアシリーズは装置自体がコンパクトで、可搬性に優れ、設置面積も小さく、施工や維持管理がラクに行えます。特に、膜モジュールの交換は工具レスで誰でも簡単に作業することができます。
アクアレスキューは可搬性に優れているため、緊急用の浄水装置として運用することができます。いざという時のために装置を購入しておき、水が必要な場合に使うことが理想的ですが、予算が限られた地方自治体や小規模事業者などでは難しいことも考えられます。そこで、同社では手軽に装置を導入できるように、装置のレンタルサービスにも対応しています。水道施設のメンテナンス時に一次的に利用したり、地震や水害などの災害時に浄水施設が破壊されたりしたときに、浄水機能を代替する装置として活躍するでしょう。
水は、人間が生きるために必要不可欠な絶対的なものです。各自治体の皆様におかれましては、地域住民の皆様の安全をしっかりと確保するために、こういった浄水装置を事前に準備しておくと、いざというときに安心です。ぜひ一度当社までお問い合わせください。
アクアレスキューは自治体・水道事業体向けに多数の納入実績がございます。山間部や離島など狭小地での浄水装置の設置に困っている、いつか来る大規模災害に備えたい、といった課題・要望をお持ちの方は、ぜひ一度当社までお問い合わせください。