近年、工業・農業・都市生活などに求められる水質が重要になっています。河川水や湖沼水、地下水などの原水は病原菌が含まれていることがあるため、そのまま飲料水として利用することはできません。そこで比較的キレイな上流域の湧水や沢水、井戸水などで安全な水を確保するために上水道用の浄水装置が必要になります。
この浄水装置のコアになる技術が、「ろ過」です。
ここでは、ろ過技術として昔から利用されている伝統的な「砂ろ過」について解説します。
ろ過を施すためには、ろ過の対象により複数のろ過材が用意されています。粗めのろ過ではスクリーン(ふるい)などが使用され、より精度の高いろ過が必要な場合は、糸巻きフィルターや不織布フィルターなどが使用されます。さらに精度の高いろ過が必要なケースでは、砂を利用した「砂ろ過」と、膜を利用した「膜ろ過」方式に大別されます。
砂ろ過は、ろ過材となる砂の隙間に水を通して異物や汚れを除去する方法で、昔から使われてきました。一方で膜ろ過のほうは、微細な孔径が空いた膜に通水して異物などを取る方法で、砂ろ過と比べて新しい技術になります。ここでは、飲料水の製造や工業用水など、様々なシーンで使われる伝統的な砂ろ過について解説します。
砂ろ過は、ろ過設備に砂や砂利を厚い層として敷き詰めて、それらをフィルターとして浄水する技術です。砂の小さな隙間に水を通して異物を除去するため、浄水の原理は膜ろ過と基本的には同じですが、微細な孔径を持つ膜ろ過と比べると、砂ろ過のほうは砂同士の隙間が大きくなってしまいます。ろ過用の砂は、浄水に適した粒度や物性をもち、水質に適合した石英質の多い高品質な砂を使うなど、様々な工夫が凝らされています。
ろ過設備は、細かい浮遊物を取り除く「ろ過砂層」と、その下に砂利を敷き詰めた「支持層」で構成されます。この支持層は、上部のろ過砂が流れないように押さえる役目を担っています。支持層の下には、ろ過した水を集める「集水装置」があります。上から下に水が通っていく間に原水が浄化され、キレイな水が集水装置に溜まっていきます。
砂ろ過方式には、ゆっくりとした速度でろ過していく「緩速ろ過」と、非常に速い速度でろ過する「急速ろ過」の2種類の方式があります。現在は、緩速ろ過が約30%、急速ろ過が約70%の割合で利用されています。
緩速ろ過は、原水をろ過設備の上から下に通水していきますが、その際に砂の表層部に自然に作られるゼラチン状の生物ろ過膜によって、ろ過の効果を高めます。この生物ろ過膜が濁りの原因物質や異物を付着して、水溶性の有機物(細菌類)もかなり除去してくれます。緩速ろ過では、生物ろ過膜は酸化作用によって微量の鉄やマンガン、アンモニアなども低減できます。原水の処理に薬品を使わないため、自然に近いろ過方式になります。【★図1】。
ただし、ろ過速度は最大8m/日ほどと遅く、濁度の高い原水には向かないという弱点もあります。砂層の上にある生物ろ過膜に汚れが堆積するため、定期的に汚れを掻き取らなければなりません。その際に生物ろ過膜が壊れてしまうため、その再生時間を勘案した計画的な保守管理が求められます。
もう一方の急速ろ過は、原水に薬剤を使った前処理を施すことで、微細な粒子を凝集・沈殿させ、「フロック」と呼ばれる大きな塊を作ります。それらを取り除いてから、次の砂層によって濁質を除去します。ろ過砂の粒には約0.5mmのものが用いられますが、小さなフロックだと通ってしまうので、砂粒子への吸着と、砂と砂の間の沈殿の両方の作用によって、濁質を除去していきます【★図2】。
急速ろ過は、狭い面積で大量のろ過が可能で、ろ過速度120~150m/日と緩速ろ過より15倍以上も処理することができます。前述のように、原水が砂層に達する前に薬剤で濁質を軽減する凝集沈殿を採用する場合には、閉塞(目埋まり)が起こりにくく、安定したろ過が行えます(沈殿槽を用いずに水を直接ろ過する方法もありますが、大きな固体物質が含まれる原水のろには不向きです)。ただし、通水時のエネルギー損失(損失水頭と呼ぶ)が1.5m前後になると、ろ過材の洗浄が必要になります。
急速ろ過は、砂層全体がフィルターとして機能しますが、砂の積層の違いにより単一の砂層で簡単にろ過する「単相ろ過」と、異なる粒径の砂層を用いて高性能なろ過が可能な「多層ろ過」があります。いずれにしても、急速ろ過は緩速ろ過よりも砂層全体に汚れが蓄積しやすい傾向があります。
そこで、砂全体を洗浄し、ろ過性能を再生させるために「逆流洗浄」(以下、逆洗)を行います。この逆洗は、ろ過を行なう方向とは逆方向に水を流して砂を浮上させ、砂と砂をもみ合せながら汚れを落とす方法です。当然ながら逆洗浄を行なう際には、それなりの時間がかかり、その間はろ過ができません。ろ過水の供給を停止するか、別の処理系統に切り替えてろ過を継続することになります。
ここまで、砂ろ過の仕組みや特長などについて解説してきましたが、砂ろ過は古くから使われてきた伝統的な方法である半面、まだ課題も多く残っています。
例えば、砂ろ過の施設を作るためには相当の面積が必要となりますし、耐震化も考慮しなければならず、基礎工事が大掛かりになってしまいます。浄水施設などで砂ろ過の設備をあとから増設しようとしても、設置スペースの関係で導入が困難な場合もあります。
また、ろ過材に砂を使うため、メンテナンスも大変で砂の交換に時間がかかりますし、メンテナンス時には浄水処理を停止しなければなりません。もちろん、継続して運用していくためのノウハウも求められます。特に、急速ろ過では事前に薬剤を入れるため、最適な注入量の見極めには熟練の経験が必要です。また、砂を逆洗で繰り返し洗浄すると、粒が摩耗して小さくなり、ろ過の性能にも影響を与えます。そのため、ろ過材となる砂の継続的な補給や、総入れ替えも重要になります。砂は産業廃棄物として処理されるため、コストの負担増にもつながります。
こういった砂ろ過に関わる浄水技術のノウハウは、継承していかなければなりませんが、昨今の人材不足も重なり、なかなか次世代にバトンタッチできないのが実情です。最近では、メンテナンスや運用面のノウハウがあまりなくても手軽に使えて、自動化や省人化が可能な「膜ろ過」を採用した浄水装置も登場しています。
この装置は、コンパクトなサイズで搬入や設置、操作も簡単で、全自動で運用できます。ろ過材である膜モジュールを交換するだけで済むので、手間もほとんどかかりません。従来の砂ろ過の悩みを解決できる膜ろ過についてご興味のある方は、下記のコラムから検討してみてはいかがでしょうか?
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